ラスト・ジョーカー
「アレン、あたし……」
「うん」
「ゼンに、言いたいことがあるの」
彼の死を願う歌なんかではなく、届けたい言葉が。
「今言わないといけない気がするの」
「じゃあ、行っておいでよ」そう言って、アレンは柔らかく笑った。
「おれはここで待ってるから」
てっきり「危ないから」と言って引き止められると思っていたエルは、驚いてまじまじとアレンを見た。
そんなエルに、「それとも一緒に行ったほうがいい?」とアレンは笑いかける。
(アレンは最初から、危ないなんて思っていなかったんだ)
穏やかに笑う青い瞳を見て、エルはそう直感した。
――彼は始めから、ゼンがエルに危害を加えるわけがないと確信していた。
エルと、ゼンと。この二人のあいだに、危ないことなどなにも起こらないと。
エルは首を横に振って、立ち上がった。
「一人で平気」
そっか、とつぶやいて、アレンがそっとエルの背を押す。
エルはその優しい力に従って、黒いもやの中に飛び込んだ。
進む先にはゼンがいる。
後ろではアレンが待っていてくれる。
――怖いことなど、なにもなかった。