ラスト・ジョーカー



 PKは正式名称をサイコキネシス、あるいは念力。


それは人の、言わば「意識の力」だ。


ゼンが芽利加からPKを奪うときに、もしかしたら芽利加の記憶の一部も一緒に漏れ出たのかもしれない。



 芽利加の声の他にも、たくさんの人の声がする。


どれも知らない声だ。


おそらくそれは、ゼンに壊された〈境界〉を作っていた境界師たちの記憶。



(だったら……)



 エルは足を止めて、前方を睨んだ。


黒いもやの中、そこだけ一段と黒々としてして、闇がうずくまっているようだった。


――そこにいる。エルは直感的に思った。



(だったら、ゼンの声も、聞こえるかもしれない)



 そう思った矢先。



――おいていかないでくれ。



 声がした。聞き間違えるはずもない、ゼンの声だ。



――みんなおれをおいて死んでいく。



 エルの聞きなれた声で、だけどエルが聞いたこともないような苦しげな声で、言葉がこだまする。



――どうしておれだけ、こんな……。



「ゼン! お願い、あたしの声が聞こえたら返事をして!」



 エルは思わず叫んだ。


もう、ゼンの苦しげな声など聞いていたくなかった。



 しかし、ゼンの返事はない。


「声」も止むことなくエルの耳を打つ。



――いやだ。さみしい。死んでしまいたい。



 一歩、前に踏み出す。だけどそれ以上は進めそうもなかった。


そこだけなぜか空気が重く、どうしても足を踏み出せない。


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