ラスト・ジョーカー
だから、エルは手を伸ばした。ゼンに届くよう、精一杯。
「ゼンのバカ! くっそじじいっ!」
エルは怒鳴った。さっきよりも大きな声で。
「なにが『さみしい』よ! あたしがここにいるのに! 手を伸ばしてるんだから気づきなさいよ!」
ゼン。
どうかこの手を取って。一緒に、明るい方へ行こう。
「ねえ、ゼン。もう一度、今度はちゃんと生きてみようよ。一人じゃないから。あたしもいるから。
あたしはほら、半分不老不死みたいなものだし、ゼンをおいていったりしないよ」
こころなしか、「闇」が薄らいだような気がした。
そう思うと身体が自然と動いて、エルは一歩前へ踏み出していた。
「一緒に生きて、いろんなものを見よう。楽しいことを、たくさんしよう。
後悔も、悲しい思いもたくさんして、それをたくさん笑い飛ばそう。
死ぬのは、生きてからでもいいんじゃないの?」
もう一歩、前に進む。
エルはそっと「闇」に触れて、歌うように語りかける。
「歩き続けて、あなたの唯一を見つけて。それはきっと永遠よりも、――あなたが望んだ死なんかよりも、ずっとずっと尊いわ」
そう言ったとき、「闇」が動いた。
もやがすこしずつ晴れて、朝日の光が射し込む。
エルの伸ばした手を、暖かくて大きな手が、握った。