ラスト・ジョーカー



 このゼンに突然攫われてきたエルだが、どうにも、ゼンは悪い人ではないような気がしていた。


(だって、)


 ゼンは呼んだら応えてくれた。


異形のエルを奇異の目で見ないし、無愛想ではあるけど、エルとまるで普通の人間に対するように会話をしてくれる。


それに、エルに毛布をかけてくれた。


見世物小屋で多くの人間に会ってきたエルだが、ゼンのような人間には初めて会った。


ゼンともう少し一緒にいても面白いかもしれないと、エルは思い始めていた。



 だから、エルは頷いた。

どうせ、エル自身のことについて、秘密にする必要も感じられない。



 それを見て、ゼンも軽く頷き返す。

その口元がわずかに緩んだような気がした。



 そのとき。



 突然なにかのチャイムのような音がリビングに響いた。

エルが驚いて「なに!?」と声を上げると。



「緊急放送だな」


 ゼンが落ち着き払って言う。



 緊急放送。

エルのいた見世物小屋には放送機が設置していなかったので聞いたことはないが、

そういうものがあることをローレライから聞いて知っていた。



 なにかしらの自然災害や危険な犯罪事件などが起きたとき、

政府がエリア内の住民に注意を促したり、場合によっては外出禁止令を発するための放送だ。



 二人ともリビングを見回して、音の出処を探った。


いち早く見つけたのは、獣の耳をもつエルだ。



 リビングの食器棚の中に無線放送機があった。


七百年以上前に使われていた蓄音機の形状をしているのは、家主の趣味だろうか。




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