ラスト・ジョーカー



 闇の中で、ゼンは目を開けた。


そしてじっと耳をすませる。



――ゼンのバカ! くっそじじいっ!



(はあ!? くそじじい!?)



 誰がくそじじいだ! と言い返そうとしたところで、また声がした。



――なにが『さみしい』よ! あたしがここにいるのに! 手を伸ばしてるんだから気づきなさいよ!



 手を、伸ばしているのか。


ゼンはじっと目を凝らすが、闇が深くて何も見えない。



 邪魔だな、と思うと同時に、わずかにもやが晴れた。


そうしてゼンはようやく気づく。


その闇は、自分自身が作り出したものなのだと。



――ねえ、ゼン。もう一度、今度はちゃんと生きてみようよ。一人じゃないから。あたしもいるから。



 そうか。一人じゃないのか。



(おまえが、そばにいてくれるのか)



 そう思うと、胸の内に灯りが点ったような心地がした。



 じっと、エルの言葉に耳を澄ます。


宝物を閉じ込めるように。一言も聞き漏らさないように。



――死ぬのは、生きてからでもいいんじゃないの?



 そうだな、と、ゼンはつぶやいた。



(その通りだな、エル。おれは百年も生きてきたけど、ちゃんと生きていなかった)



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