ラスト・ジョーカー
エルとゼンは相楽に頼んで、麻由良に手紙を送ってもらった。
ろくにさよならを言えなかったことへの侘びと、麻由良たちの旅の安全と再会を祈る言葉だけの、短い手紙。
年中移動している隊商に手紙を届けるのはなかなかに骨の折れることだが、うまく届いてくれるといい。
そして二人は、これからエリア〈カゲロウ〉を目指す。
初めてエリア〈ユウナギ〉を出たときと同じ、たった二人の旅だ。
「ゼン、〈カゲロウ〉ってどんなところかな。ゼンは行ったことある?」
目をキラキラさせて言うエルに、ゼンは苦笑を浮かべた。
「べつに、他のエリアとたいして変わらない。あんまり期待するなよ」
「もう! ゼンはすぐそうやって、夢を壊すようなことを言うんだから」
「……まあ、強いて言うなら、海水浴場が有名だな。〈カゲロウ〉は他のエリアと違って、エリア内に海が含まれてるから」
「あ、じゃあね、あたし泳ぎたい!」
はしゃぐエルに、「おまえ、泳げるのか?」とゼンは尋ねた。
その目がかなり疑わしげなことに、エルは頬を膨らませる。
「……泳げない、けど。あたし、運動神経はいいもの。練習すればすぐに泳げるようになるんだから!」