ラスト・ジョーカー



 そういうゼンはどうなのよ、と突っかかったエルは、ゼンに「泳げないわけないだろ」とあっさり言われて撃沈した。



 百年も生きてるもんね。そりゃあ、泳ぐ練習をする時間も機会もいくらでもあったわよね。


と、エルがぶつぶつと負け惜しみを言っていると、

「あ、そういえば」

 ふいに、ゼンが言った。



「どうしたの?」


「おまえ、おれのこと『くそじじい』呼ばわりしやがったな」



 そんなこと言ったっけ、とエルはすこし考えこむ。

だがすぐに思い出して、その表情を凍りつかせた。



「いや、あれはその……言葉のあやって言うか……」


「おれ、百十七歳。おまえ、約五百歳」


「う……」


「おれがくそじじいなら、おまえなんかもうくそばばあ上回ってミイラだぞ。なあ、五百歳」


「うっさい!」



 ミイラ呼ばわりされてむくれたエルを見て、ゼンが吹き出した。


それにつられてエルも思わず笑いだす。




 笑い声を上げながら、二人は世界を歩いていく。




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