ラスト・ジョーカー
その放送機から、聞き覚えのある声が流れた。
「エリア〈ユウナギ〉B533地区の住民に告ぐ。
文明復興機関〈トランプ〉への反逆罪を犯した少年が、〈トランプ〉の重要な研究資料を盗みB533地区へ逃走した。
捜査のため、住民には外出禁止令を発する。
これより外出禁止令解禁の放送が流れるまで、住民には一切の外出を禁止する。
現在屋外にいる者は至急、現在最も近くにある家屋または施設に入ること。
また、住民は〈トランプ〉隊員の家宅捜索に全面的に協力せよ。くり返す…………」
低く、単調に響く声。
どこか冷たい響きをもつその声の主は。
「スメラギ……」
ゼンが呟いた。
それを聞いて、エルはパッと顔を上げた。
「知っているの?」
そう訊くと、「日本で知らないやつはいないだろうな」と答えた。
〈トランプ〉とはなんなのか、スメラギは何者なのか、気にはなったが、エルには今それより気がかりなことがある。
「今の放送の『少年』って、……」
「ああ、」ゼンは苦々しい顔で頷いた。「おれのことだろう」
「どうするの?」
心配そうに眉根を寄せて、エルは尋ねた。
エルの所有権はスメラギが持っているので、自分がスメラギのもとへ連れ戻されるのはかまわないが、
ゼンが捕まったとき、どんな扱いを受けるのかが心配だった。
放送では「反逆罪」と言っていたが、それはどの程度の罰が課せられるのだろうか。