ラスト・ジョーカー
ゼンは答えなかった。
外から見えないように注意深く窓の傍に張って、外を睨みつけている。
どうやら〈トランプ〉隊員とやらの動きを探ろうとしているのか、と思い至ったエルは、じっと耳をすませて、拾った音をゼンに告げた。
「少年を匿っていないかどうか、念入りに調べろ。……って、男の人が言ってる。たぶん〈トランプ〉隊員のひとじゃないかな」
ゼンは驚いたように目を見開いて、エルを見た。
「さすがに耳がいいな。……やつらは今、どのへんにいる?」
「たぶん、三、四軒隣の家かな」
「くそッ、もうそんな近くにいるのか」
そう言って舌打ちをすると、ゼンは腰に差したナイフを抜いた。
「どうするの?」
エルは再び先ほどと同じ質問をした。
「この窓から外に出て、できるだけ見つからないように逃げる。
途中で〈トランプ〉のカードどもと会ったら、交戦しつつ隙をみて逃げる」
無茶だ。
エルはすぐさまそう思った。
エルの耳に届く足音だけでも、相手は十から十五はいる。
その全員と一斉に戦って、いくらなんでも無事に逃げおおせられるわけがない。
ゼンを引き留めようと、エルが口を開きかけた、そのときだ。