ラスト・ジョーカー
「ずいぶんな無茶をするのね」
声が、した。
あまりに突然に聞こえた第三者の声に、エルもゼンも跳びあがって、
あたりをきょろきょろと見渡して声の主を探った。
だが、リビングの中に人影はない。
おかしい、と思ったとき、エルの視界の端に、なにか白い筋のようなものが幾本も揺らめいて見えた。
なんだろう、と振り返って、エルはこれ以上ないほど目を大きく見開いた。
その白い筋は人の髪だった。
向かい合うエルとゼンの間に、いつの間に現れたのか、小さな少女が立っていた。
そしてその少女は、異様なまでに白い髪をもっていた。
ゼンの灰白の髪もかなり珍しいが、この少女の髪は珍しいを通り越していっそ神々しかった。
雲よりも、雪よりもずっとずっと白く、輝いて見えた。
加えて、その髪は異様なまでに長い。
エルの肩くらいまでしか背丈のない少女の、膝の下にまで白い髪が伸びている。
髪色と同じ白のワンピースをひらりとまとった姿は、おとぎ話の妖精のようだ。
異様なのは髪だけではない。
少女自身の雰囲気が、愛らしい顔と不釣合いに老成していたのだ。
見た目は十歳程度なのに、その黒真珠の目には長い年月を生きて世界を見てきた老人のような、不思議な静けさがあった。
少女は愛らしい顔をほころばせて、ふふふ、と笑った。
「驚かせてしまったみたいね」
少女特有の甲高さはなく、耳に心地よいたおやかな声だった。