ラスト・ジョーカー



 両方の手に二人の腕をつかんだまま、カンパニュラは目を閉じると、深く息を吸った。



 その途端、周りの景色が変わった。



 エルたちの周囲を囲んでいた白い壁とフローリングは消え去り、代わりに現れたのは、所々隙間のできた粗末な木の壁と、木の床。


窓はなく、外の様子はわからないが、エルの嗅覚は歓楽街やオフィス街とはまったく違う空気を感じとっていた。



 なにがどうなったのかまったくわからず、エルはただぽかんと立っていた。


ゼンはさすがに驚くことにも慣れたのだろう。

すぐさまカンパニュラの腕を振り払って駆け出し、背後にあったドアを開けた。




 扉の外に広がっていたのは、鬱蒼と茂った木々と、草に覆われた地面。


エルも外に出たゼンのもとへ駆け寄って見ると、エルたちのいた小屋の周りを、ぐるりと木々が囲んでいた。



 住宅街の空き家にいたはずが、いつのまにか森の中の小屋にいる。


エルは混乱して、この状況の元凶と思われるカンパニュラを困り顔で見つめた。



「瞬間移動」



 形のいい唇の両端をつり上げて、カンパニュラが言った。



「わたしのPKで、わたしたち三人を別の地点へ移動させたのよ。

ここはエリア〈ユウナギ〉の〈境界〉そばの森の中」


 よくわからない単語ばかりが出てきて、エルは目が回った。


(PKってなに?〈境界〉って?)



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