ラスト・ジョーカー
エルがそう訊くと、ゼンは不意をつかれたように、きょとんとした顔をした。
「おまえ、いくら檻暮らしだったからって、そんなことも知らなかったのか……」
心底驚いたというふうに言われ、エルはムッとして口をとがらせた。
「知っていたかもしれないけれど、記憶がないんだもの。しかたないじゃない」
「でも、自分の名前と言葉はわかるんだろ? サイコキネシスなんて、なにも特別な言葉じゃない。五歳児でも知ってるぞ」
「そんなことを言われたって、わからないものはわからないもの」
そんなにあげつらわなくてもいいじゃない、とゼンを睨みつけたが、そのゼンが意外にも真剣に考え込んでいるのを見て、エルは眉をひそめた。
しばらく見守っていると、ゼンはふと顔を上げて、エルに尋ねた。
「他になにがわからない?」
あたしの質問には答えてくれないのか、と少し落胆しながらも、エルは答えた。
「昼にカンパニュラが言っていた……えっと、〈境界〉とか。
言葉の意味はわかるんだけど、どうも、あたしが知っているのとは違う意味で使われていたように思うの」
「〈境界〉か……」
「あ、それからね、ウォルターが言っていた、〈塔〉っていうのも、何だろう?
あと、〈トランプ〉も。なにかの組織の名前かな? とは思うんだけど」
「〈塔〉に、〈トランプ〉ね……。じゃあ、〈裁きの十日間〉は?」
「聞いたことはあるけれど、よくは知らない。たしか、もうすぐその百年目のお祭りなんでしょう?」