ラスト・ジョーカー
エルが首を傾げると、ゼンはさも面倒くさそうな顔をして、
「長い話になるが、その昔、異形がこの世にいなかった時代から、今の時代に至るまでのことを教えてやる。
〈トランプ〉や〈裁きの十日間〉の説明をするには、必要だろうからな」
と言った。
「異形って、いなかったの?」
エルは目を丸くして訊いた。
自分のような、ローレライのような生き物が、存在しなかった時代があるということが、どうにも信じられなかった。
だが、ゼンは頷いた。
「昔は、PKを使える人間はほとんどいなかったんだ。だから、異形なんて生き物はいなかった。
だが、今から五百年前、ずば抜けて強力なサイキック――PKの使い手が現れた。
伝承によれば、幼少期はただの子供だったのが、十歳前後に突然力が発現したらしい。
発現の原因はわかっていないし、名前も現代に伝わっていないが、
世界を変えるほどの力を持ったそいつは、「切り札」――〈ジョーカー〉と俗に呼ばれていた」
ジョーカー、とエルがつぶやくと、ゼンはかすかに頷いた。
「PKは使い手本人の意志とは関係無く、周囲に影響を及ぼすことがよくある。
五百年前の社会では、PKが起こす人智を超えた不可思議な現象は、ポルターガイストという心霊現象として認識されていた」
「PKが幽霊のせいにされていたってこと?」