ラスト・ジョーカー



 今日の客たちも、小屋に入るなりエルのところへやってきては、檻を囲んで騒ぎだした。



 すごい。


 こんな異形は見たことがない。


 一体何種類混ざっているんだ。


 誰がこんなものを作ったのだろう。


 さっきまで歌っていたのは、これか。



 エルはただうつむいて、そんな言葉が頭上を飛び交うのにじっと耐えた。




 だが、気づいていた。


その群れのなかで、二人だけ明らかに他の客とは様子が違ったことに。


笑ってもいなければ、驚いてもいない。


ただ事務的な無表情を浮かべ、時折エルを指差してはコソコソと話をしていることに。


エルはうつむいたふりをしながら、視界の端でずっとその二人の気配をうかがっていた。




 すると、二人のうちの女のほうが、こっそり腕を持ち上げた。




 え? と思うと同時に、コツンと、額に硬いなにかが当たった。


はね返って檻の外に転がったそれは、角張った小さな石だった。




 石を投げられたのか。


そう思うと同時に、エルの顔はサッと青ざめた。




 なんだなんだとざわめく客の群れを睨みつける。


周囲をキョロキョロと見渡す人々に混じって、まっすぐエルを見つめる二人は、場違いまでに冷静だった。




「おい、傷が……!」



 客の一人が言った。


エルに一斉に客たちの視線が集まり、皆一様に息をのんだ。




 エルの額についた傷口は、血を流すこともなく、まるで意思をもつようにもぞもぞと動きだすと、みるみるうちに塞がった。




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