ラスト・ジョーカー
「個人のPKの強さによって、できることとできないことがあるが、
まだ誰も――カンパニュラを除いて誰も一人ではできなかったのが、
ある空間と別の空間を繋げたり、時間を巻き戻したり、伸ばしたり縮めたり。
……つまりは、時間や空間を歪めたりすることだ。ワープもその一貫だな。
それからもう一つは、人を傷つけること。これは単純に法で禁じられている」
そうなの、とエルは呟いた。
ここは、人々がサイコキネシスを使い、結界に囲まれた街に住む、そんな世界。
東西南北に塔が建てられ、それを使って人々はエリア内を自在に行き来する。
エルはゼンに教えてもらうまで、ここがそんな世界だと知らなかった。
ずっと檻の中にいたエルには。
記憶が始まってから五年の檻の中の生活とは、今いるところが違いすぎて、エルは自分がどこか別の世界から来たような気がしていた。
どこか遠い世界から、この世界に迷い込んできたような。
まるで、たった一人で異世界に迷い込んだ、ファンタジーの主人公のように。
そこまで考えたとき、ふいに「おい」とゼンに呼びかけられた。
「なに、ゼン?」
と、エルは応えた。
「もうあらかた話したから、そろそろ寝ろ。明日は早い」