ラスト・ジョーカー
エルが言うと、ゼンはすこしかすれた声で「……はよ」と返す。
それからバッグから水の入ったボトルを二つ取り出して、一つをエルに手渡した。
受け取った水を飲んで、エルは「どう? 行き先は決まった?」と尋ねる。
ゼンは水を少し飲むと、ボトルをバッグにしまいながら頷く。
「会わなくちゃいけない奴がいるから、そいつに会うためエリア〈ヨザクラ〉を目指す。
神出鬼没な奴で、いつもあちこちエリアを移動しているが、今は〈ヨザクラ〉にいると昨日情報を掴んだ。
そのために途中で一度〈ハナブサ〉に立ち寄って補給をする」
「その、会わなくちゃいけない奴って、どんな人なの?」
「それは……」
ゼンは答えようとして口を開いたが、そのとき突然、ぐう、という大きな音が鳴った。
「……でかい腹の虫だな」
顔を真っ赤にしたエルを据わった目で見て、ゼンが言った。
「うるさいっ」
「コオロギかなんかの、音がうるさい虫も混ざってるんじゃないか、おまえ」
エルは自分の腹を両手で抱えて、「うるさいったら!」と怒鳴った。
そもそも昨日の昼からなにも食べていないのだ。
腹がへらないほうがおかしいじゃないか、とエルはぼやいた。