ラスト・ジョーカー
塞がったぞ。
ありえない。
どうなってるんだ。
どよめく小屋の中に、その時ひとつの声が降った。
「化け物だ」
ほんの一瞬、瞬きする間だけ、小屋の時間が止まったように、エルは感じた。
それはあまりに的を射た禁句だった。
ひとの、未知のモノへの恐怖をあおるのに、これほどうってつけの言葉はなかった。
化け物を好んで観に来た彼らだが、やはりその人間を遥かに凌ぐ強さを目にすると、恐ろしくなるらしい。
「化け物め!」
客の一人が言って、地面に落ちていた石をエルに投げつけた。
それを契機に、ほかの客も次々にエルに石を投げはじめる。
エルはなにも言わなかった。
客に歯向かう権利が自分にないことはわかっていた。
だからただ、表情を見られまいと、うつむいて自分の体を見下ろした。
その腕に、腿に、次々に大小の石ころがぶつかる。
たしかに自分は人とは言えないだろう。
人のような顔、人のような体をしているが、決して人にないものを持っている。
頭には腰の下まである赤い癖毛に埋もれるように、獣の耳がついている。
人間の青い右目に、それとつりあわない猫のような金の左目。
爪は鋭く、肌には細かい銀のうろこがところどころに生えている。
これを人と呼ぶことは、たとえばエルが人であったとして、きっとできないだろう。
それが、異形だ。
科学者たちによって獣と合成された、元、人間。