ラスト・ジョーカー
「幸い森の中だ。食えそうな獣の一匹や二匹いるだろ。獲ってきたらどうだ」
そっけなく言うゼンを、なかば腹がなった恥ずかしさを当たるように、エルは睨みつける。
「旅に出るってのに、食べ物も用意してないの? 無計画なんじゃない?」
だが、ゼンは淡々と、「ばか。食糧ならある」と言った。
「なら、それを食べればいいんじゃないの?」
「ばかか。無限にあるわけじゃないんだぞ。
今日あの結界を越えてエリア外に出たら、しばらくはなにもない、岩と砂だらけの不毛の大地が続く。そこで食糧がきれたら終わりだろ。
今無駄遣いしてどうする。わかったらさっさと獲ってこい。ただし逃げるなよ」
しっしっ、というふうに手をひらひらと振るゼンに、エルは舌を出した。
(なによ、ひとを猟犬かなにかみたいに。それに今、ばかって二回も言った!?)
だが、言うことはごもっともだったので、エルは不満げな顔をしつつも、しぶしぶ黙り込んだ。
そして数回鼻をひくつかせると、トン、と地面を蹴って、すぐ近くにあった木の枝に跳び乗った。
その上でしばらく耳をすまして、それから突然跳び上がると、別の木に移る。
そのままひょいひょいと枝を渡って、どこかへ消えいくエルを、
ゼンは火を起こすための木の枝を拾い集めながら、呆れ顔で見送った。
「……あいつ、猿も混ざってるんじゃないか」
その呟きは森に吸いこまれ、消えていくかに思えたが。
狼の耳をもつエルには届いていたようだ。
間髪入れず、樹々の間から怒鳴り声が返ってきた。
「聞こえてるわよ!」