ラスト・ジョーカー
エルはすこし前を行くゼンに小走りで追いつき、話しかけた。
「すごいね、ゼンってサイキックだったんだね」
すると、ゼンがわずかに振り返って言う。
「なに言ってんだよ、昨日だってさんざんPK使っただろ」
そう言われて、エルは思い出した。
昨日の昼、ゼンがさらってきたエルを空き家に置いて買い出しに出かけたときのことを、だ。
あのときゼンは、家の周りに結界を張ったと言っていた。
エルは外に出られないし、他の人は中に入れない、と。
「ウォルターの車を事故に遭わせたのもおれだ。
PKで、やつに目の前から車が突っ込んでくる幻覚を見せた。
そこからおまえをかっさらうときも、そのまま担いだら重いから、おれが一kg程度の重量しか感じないように、おまえにかかる重力を調整した」
「完全に浮かせるわけにはいかなかったの、それ?」
「明らかにPKで浮かせているとわかるように運べば、万が一途中でウォルターに追いつかれたときに、やつの力でおれの力を相殺される可能性がある。
そのときおまえがおれの手の触れる距離にいなければ、おまえを奪い返されないとも限らない」
なるほど、と、エルは呟いた。
そして、ゼンがエルを抱えて走行するトラックから飛び降りたときのことを思い出す。
あのときゼンは、一㎏の重さしか抱えていなかった。
だから、決して軽くはないエルを抱えて、あんな真似ができたのだ。
そこまで考えて、エルはゼンを睨みつけた。
「女の子に向かって、重いとか重量とか言うな!」