ラスト・ジョーカー
だが、ゼンは淡々と、
「いや、だって、おまえをどう軽めに見積もっても、推定年齢十五歳くらいの体格だから、人間で考えても四十㎏はあるだろう。
女の体重として四十㎏は軽いほうでも、担ぐとなれば重い」
と言う。
はいはいごもっともですね、と、エルはため息をついた。
それからは二人とも黙って歩いた。
砂漠は暑いものだと、エルは思っていたが、二人の進む砂の原は不思議とひんやりしていて、さらさらとした感触が裸の足に心地よい。
二人は昼に一度、朝に獲った鳥の残りを食べて、それ以外はずっと歩き通した。
赤茶けた砂と岩だらけの世界は二人の足音の他に音はなく、地面にも空にも生き物の気配はまったくない。
風邪は時折吹くけれど、細かな砂をほんの少し巻き上げるだけだった。
時間が経つにつれて、この世界に自分とゼンとたった二人だけしかいないような感覚に、エルは襲われた。
やがて空が薄暗くなり、ひときわ明るい星が昇ってきた頃、エルはふと振り向いた。
〈ユウナギ〉の街は黒い星のように小さく、地平の上にちょこんと乗っていた。
エルは思わず立ち止まった。
それに気がついたゼンが足を止めて、エルを振り返った。
「どうした、疲れたのか? なら、今日はこの辺で休むか」
エルは首を振った。
「いや、疲れてはいないんだけど、ただ……」
そう言って、地平線上の〈ユウナギ〉を見つめたまま、ワンピースのポケットから、おもむろにローレライの鱗を取り出した。