ラスト・ジョーカー
「ただ、もう一人の異形をなんとかしてやってくれ、と言うと、彼女は目を閉じて、そのまま動かなくなった。
……戻ってきた支配人にボコボコにされて死ぬよりは、ましな死に方だっただろうよ」
「…………そう」
やっぱり、ローレライは死んだのか。
(最後に、あたしのことを気にかけてくれた)
エルは鱗を一度撫でると、再び〈ユウナギ〉の方角を見た。
彼女と過ごした世界は、もうあんなに遠く、小さくなってしまった。
薄暗くじめじめとした、狭い世界だったけれど、なくなってみるとそれがひどく懐かしい。
なくなったのはつい昨日のことなのに。
いつか彼女に、檻の外へ出たいと言ったことがある。
あなたももっと自由に泳ぎたいだろう、と。
未来の自分が檻の外どころか、エリアの外を旅しているなんて、あのときは思いもよらなかった。
「ゼン、あのね。ここなら〈ユウナギ〉にいる〈トランプ〉の人にも聞こえないと思うし、だから……」
一つ、息を吸う。ゼンは目でその先を促した。
「ローレライへのレクイエムを、歌ってもいいかな?」
それは、彼女とエルがした、最初で最後の約束だったから。
ゼンはなにも言わずに、エルから目をそらすと歩き出した。
だめか、とエルは落胆した。
だが、ゼンはそのままいくらも進まないうちに、転がっていた岩にエルの方を向いて腰掛けた。
「ほら、歌えよ」
――その、あまりに意外な言葉に、エルは思わず耳を疑った。