ラスト・ジョーカー
ジャックというのは、〈トランプ〉専属の特務防衛員のことだ。
〈トランプ〉では局長をキング、副局長をクイーン、特務防衛員をジャックと呼ぶ。
各国の〈トランプ〉支局のうち、日本、アメリカ、ロシア、イギリスの四大理事国をそれぞれハート、クラブ、スペード、ダイヤと称し、さらにはその全支局を統括する最高責任者をAと呼ぶ。
Aについてはいろいろと謎が多く、どこの誰なのか、その国籍すら、知る者はいない。
〈トランプ〉創設以来、すでに九十五年が経っているが、代替わりの話が浮上したこともない。
四大理事国のキングはそれぞれ定期的にAと二人で「お茶会」をすることになっているが、Aが直接現れるわけではなく、いつもビデオモニター画面を介している。
当然、画面の向こうのAは、いつもカーテンで姿を隠している。
変声機で声まで操作する周到ぶりだ。
スメラギはこの、Aとの「お茶会」が、〈トランプ〉の仕事のうちで最も嫌いだった。
姿の見えない、正体の知れない、存在しているのかどうかすらわからない相手と話すのは、
スメラギにとってはなかなか骨の折れることなのだ。