ラスト・ジョーカー



 エリアを出る前、外になにかいるのか尋ねたときに、ゼンがそう言っていたことを、エルは思いだした。


いったいなんなのだろうと、エルは首を傾げる。


なにかが地上を目指して、砂の奥から這い上がってきている。


すごく大きくて、ゼンが言うには危険なもの。



 エルは目を閉じて、耳を澄ます。


そうして「それ」が迫る音を聞いているうちに、肌が粟立つのを感じた。


本能が、危険なものが来ると察知している。


その音はだんだん大きく、近くなり、やがて。



「ゼン、来た!」



 エルは叫んで、反射的に目の前のゼンの腕をつかんで跳びのいた。



 その一瞬後。


轟音とともに、嵐でも起きたかのように砂が巻き上がり、その下から赤黒く巨大な二枚貝のようなものが現れた。


貝の周縁部には、無数の黄緑色の棘が生えている。


それが二枚の貝を獣のあぎとのように勢いよく閉じたのを見て、エルは肝の冷える思いがした。


その貝が閉じたのが、ちょうどつい先ほどまでエルとゼンの立っていたあたりだったのだ。



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