ラスト・ジョーカー
閉じた貝の表面は、内部の深紅とはうって変わって、周縁の棘と同じ、鮮やかな黄緑色をしていた。
(あれ? なんだか、あれ……)
その謎の生物を、なぜだか見たことがあるような気がして、エルは砂煙の中、懸命に目を凝らした。
「もしかしてあれ、ハエトリグサ?」
エルが呟くと、ゼンが驚いたように目を丸くして、「知ってるのか」と言った。
「う、うん、なぜか……。でも、あたしが知っているのはもっと小さなやつだよ。名前の通りに、ハエを獲る程度の大きさ」
エルがは訝しげな顔で言った。
ゼンはそれに「そういうのが一般的だ」と、頷く。
「あれは、砂漠ハエジゴク」
むにゃむにゃとなにかを咀嚼するように動くハエジゴクを睨みつけながら、ゼンは言う。
「おまえの知ってる小さいやつは食虫植物として有名だが、夜の砂漠に出没するあれは、それがなんらかの原因で巨大化し、茎やら蔓やらまで生えた食人植物だ。ちなみに弱点は、……」
言いながら、ゼンは転がっていた石を拾いあげて、砂漠ハエジゴクに投げつけた。
すると、ハエジゴクはそのあぎとを大きく開いて、石をパクリと呑んでしまった。