ラスト・ジョーカー



 そのとき、エルは見た。


ハエジゴクの、獣に例えるならちょうど喉のあたり。


二枚の葉が重なったところに、エルの頭一つほどありそうな、充血した眼球を。




「あの目玉はあれの心臓みたいなものだ。あの目を傷つけると、地中に潜って少なくともその日は姿を現さなくなる」

 と、ゼンは言った。



「その日は、って……もう二度と現れないように、完全に倒す方法はないの?」



「できればそれが一番だけどな。砂漠ハエジゴクは臆病な生き物だから、一匹殺せば他のやつはびびって出てこなくなるし。

でも、難しいだろうな。目玉を本体から切り離して完全に潰せば死ぬが、やつは目玉が少しでも傷つけば、すぐに地中に潜って逃げようとする」



「目を潰すって言ったって、あの口の中に入ったら、その瞬間にゴクンじゃないの?」



「いや、あれはあくまで植物だから、あの目があるあたりは、喉のように見えて喉じゃない。だから、口の中に取りこんだものを飲み込んだりはしない」



「そうなの? だったらあたしがあの口の中に入って、目玉に蹴りの一発でも――」



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