ラスト・ジョーカー




 借りるね、と言って、エルはゼンの腰にぶら下がった短刀をひったくり、砂漠ハエジゴク目がけて跳びだした。


「あっ、おい!」とゼンが呼んだが、砂漠ハエジゴクの蔓を防ぐのに手一杯で、追いかけようとはしなかった。



 エルは無数に伸びてくる蔓を眉一つ動かさずにかわし、その上に跳び乗った。


そして蔓から蔓へ跳び移りながら、ハエジゴクに近づいていく。




 ふと、ゼンは大丈夫だろうかと気になって振り返ると、ゼンは呆気に取られた顔でエルを見ていた。


それでも向かってくる蔓はちゃんとはじいているので、大丈夫だろうと判断してエルは前を向く。




 そうして、目を大きく見開いた。



 もうかなり近くにいるハエジゴクから新たに伸ばされた蔓が、ちょうど眼前に迫っていた。



(避けきれない)



 そうエルが思うと同時に、その蔓が突然、壁に阻まれたようにピタリと動きを止めた。



 振り向かなくてもわかる。ゼンの仕業だ。



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