ラスト・ジョーカー
ありがとう、と心の中で言って、エルはその蔓に跳び乗り、
「おい、化け物! こっち向きなさい!」
と、ハエジゴクに怒鳴った。
ハエジゴクはその声に反応し、エルの方を向いた。
そしてエルを喰らおうと、その口をパックリと大きく開ける。
――一度粘液に触れれば、とたんにその部位が溶かされる。
エルはにやりと笑って、足元の蔓を蹴ってハエジゴクの真上に跳びあがった。
「あなたがあたしを溶かしきるのと、あたしが再生するのと、どっちが早いかしらね!」
ハエジゴクはエルが口の中に落ちてくるのを待つように、真上を向いて大きく口を開く。
その中にエルは落ちていき、その勢いのまま短刀を目玉に突き刺した。
そのとたん、ハエジゴクは耳に不愉快な叫び声を上げて、エルを追い出そうとするかのように、激しく捕虫器部分を揺らした。
葉の粘液に触れた足が、腕が、ジュッと焼けるような音をたてて溶ける。
痛みに顔をしかめながらも、エルはハエジゴクの葉に短刀を突き立てて踏ん張った。