ラスト・ジョーカー



「でも、すぐに口の中に放り込まれなくてラッキーだったなあ。死んだフリしてたおかげかな」


「あ、フリだったんだ……」



 アハハ、と、エルは乾いた笑いをもらす。


ローレライといいゼンといい、エルの周囲には無口な者が多いので、彼のように陽気な人に対してどう反応すればいいのか、エルにはわかりかねていた。




「あんた、どこも怪我とかはしていないのか」



 ゼンがしゃがみこんで、男に尋ねた。

対して男は、「おー、無傷無傷。おれ悪運強すぎ」と冗談めかして、カラカラと笑ってみせた。



 エルはその言葉にほっと胸をなでおろした。


だが、訊いた当人であるゼンは、それを聞くとすぐさまエルの肩をポンと軽く叩き、

「それはよかった。……行くぞ」

 と、言って、すたすたと歩き出す。



「えっ、ちょ、ちょっと待って!」



 慌てたように言ったのは、エルではなくて蒼髪の男だった。


エルはそれにすこし面食らって、ゼンと男とを交互に見る。


ゼンも驚いたような顔をして男を振り返った。



「えっと、お二人さんはどこへ行くの?」



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