ラスト・ジョーカー



 男が訊いた。どうなの、と、エルもゼンを見る。

そういえばゼンから行き先を知らされていなかった。



 ゼンは訝しげな顔をしつつも答える。



「〈ハナブサ〉だが」



「あ、おれも〈ハナブサ〉行こうとしてるんだ。よかったら一緒に行かない? 旅は道連れってことで」



 男はにこやかに提案するが、ゼンの答えはにべもない。



「必要ない」



 しかし、男は食い下がる。



「そう言わずにさあ。正直な話、一人で砂漠行きするのが怖くなったんだ。

また砂漠生物に遭遇したら切り抜ける自信ないし。食糧は自分で用意があるし、おれに構わなくていい。

負担はかけないから、ついていかせてよ。ほんと頼むよ」



 男は歩みを進めるゼンについていきながら、へらへらと笑みを浮かべて手を顔の前で合わせ、拝むようなポーズをとる。


対してゼンは歩みを止めようとはしない。


真剣に頼んでいるとは思えない男だが、ゼンの態度もいかがなものか。



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