ラスト・ジョーカー
「突っ込みどころ全部に突っ込んでくれるなんて、旦那は真面目だねぇ」
「おまえ、いっそ食糧切れで行き倒れろよ」
アレンが加わってから、二人はずっとこんな感じだ。
エルもはじめの頃はこうしたやり取りが始まると「まあまあ」となだめていたが、すぐになにも言わなくなった。
が、今回はそうも言っていられない。
「でもゼン、そんなこと言ってるけど、そろそろアレンよりもあたしたちが危ないんじゃない? 水、もうほとんどないんでしょ?」
ちなみにエルがこのことを知ったのはつい先ほど、朝餉の支度を手伝っていたときだ。
もともと小ぶりなゼンの鞄に入っていたのは、火打ち石と蝋燭、荷物が増えたときの予備用であろう袋、
〈ハナブサ〉までもつかもたないかの量の保存食、二日分ほどしかない水のボトルに、あとはよくわからない諸々だ。
そして水はあとニ、三口程度しか残っていない。
「おやおやぁ? ゼンの旦那、ひとには食糧がなくなっても面倒見ないぞって宣言出しておいて、もしや水がなくなったらおれにもらうつもりだったとか?」
アレンが茶化すと、ゼンはすぐさま「んなわけあるか」と返した。
それからエルの方を向いて、
「おい、耳すましてみろ」
と言う。エルは素直に目を閉じて、神経を耳だけに集中させた。