ラスト・ジョーカー



 〈ユウナギ〉から砂漠に出てからずっと、この砂漠は異様なまでに静かだ。


ときおり吹く風の音、鳥の羽ばたき、エルたちの足音。


それくらいしか音がない。耳をすましてみてもそれは変わらない。


今は鳥の声も羽ばたきの音もしない。風もない。


聞こえるのは、ゼンとアレン、そして自分のわずかな息の音、鼓動の音、砂がさらさらと砂の山からこぼれる音、水の流れる音……。



「えっ? 水の音?」



 エルは思わず口に出した。


それからもっとよくその音に集中する。



「……うん、たしかに、水がある! かなり小さいけど、川がある、のかな。

そう遠くないけど、ゼン、そこで水を調達するつもりだったの?」



 エルが訊くと、ゼンは黙って頷いた。すると、アレンが「でもさぁ」と声を上げた。



「砂漠を流れる謎の小川でしょー? それ、飲めんの?」



 もっともな疑問だ。

エルは多少の雑菌程度なら腹を壊したりはしない自信があるが、人間であるゼンはそうはいかないだろう。



 問われたゼンは無言で鞄をあさると、中から白っぽい石ころがたくさん入ったビニール袋を取り出した。


エルがゼンの鞄をあさったときに見た、「よくわからない諸々」の一つだ。



「なにそれ、石ころ?」



 アレンが訊くと、ゼンは首を振った。



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