ラスト・ジョーカー



「ただの石ころじゃない。浄化石だ」



「浄化石?」



「水に入れたら、水中のごみやちり、人体に有害な細菌なんかを取り除いてくれる」



「へえ、そんなのあるんだ」



 感心したように言って、エルは石をしげしげと眺める。角がなくて丸っこい、真っ白な石。


見た目には普通の石に見えるが、なんだろう、なにか生命の気配のようなものを感じる、とエルは思った。


生き物ではないが、生き物の力を宿しているような気配。




「で、川はどっちだ?」



 ゼンが訊いた。肩にはボトルの入った鞄をかついでいる。


水を汲みにいく気だろうか。



「んっとね、……あっちにまっすぐ行ったらあるよ」



 耳をすまして、エルは川がある方向を指差した。


ゼンはそちらを見て、チッと舌打ちをする。



「道がそれるな。ここからどれくらいかかるかわかるか?」



「一時間もあれば往復できるくらいかな。あたし行こうか? たぶんあたしが走って行ったほうが早いよ」



 エルの提案に、ゼンはしばらく考えるそぶりを見せたが、やがて「いや、いい」と首を横に振った。



「どうして? あたし、逃げたりしないよ?」



「ばか。砂漠生物の退治とか、野鳥仕留めたりとか、全部おまえがやってるだろ。女にばっか任せてられるか」



< 79 / 260 >

この作品をシェア

pagetop