ラスト・ジョーカー



 がしがしと頭を掻きながらゼンが言うと、エルの後ろで「お! ゼンの旦那、男前!」とはやしたてる声があった。

言うまでもなくアレンだ。



 それを黙殺して、ゼンは腰に下げたナイフを鞘ごと抜き取った。


そしてそれを手のひらで包み込むように持ち、ぐっと力を込める。



 瞬間、ゼンの手の中のナイフがほのかに青白い光を放った。


すこし遅れて、PKを使ったのだと気がつく。


水面のさざ波のように光は揺らめき、揺らめき、やがて消える。



 ゼンは光の収まったナイフを鞘から抜き取り、その鞘を「持ってろ」と言って手渡した。



「いいか、これは絶対に失くすなよ」



 そう言って、ゼンは自分の持った抜き身のナイフをを上空へ放り投げた。



 くるくると回転しながら真上に飛び、そのまま重力に従って落ちてくるかに見えたナイフはしかし、ゼンの目線よりもすこし上でピタリと止まった。

その切先は、まっすぐエルの方を指している。



「な、なに?」



 わけがわからずにエルが問うと、

「方位指針みたいなものだ。指すのは北ではなく、その鞘だけどな」

 と、答えが返ってきた。



 なるほど、道に迷わないための措置か。


エルが納得したのを見て、ゼンは「じゃあ、行ってくる」と言い、エルに背を向けて歩き出した。



「うん、待ってるから」



 エルは鞘を大切そうに胸に抱えて、ゼンの背中に手を振る。


遠ざかる背中を見ながら、エルは無意識のうちに、

「女の子扱い、生まれて初めてされたかも」

 と、小さく呟いた。



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