ラスト・ジョーカー
(だって、毛布をかけてくれた。マントをくれた。歌を聞いてくれた。化け物のあたしが訊くことに、無愛想だけどちゃんと答えてくれる)
エルにはその、ゼンがしてくれる一つ一つの小さなことが嬉しかった。
見世物小屋の支配人は毛布などくれなかった。
エルが寒い思いをしようと、死ななければ問題ないと。
訊いたことに答えてくれなかった。
化け物が話しかけるなと。
スメラギも、きっと似たようなものだ。
だって彼は、エルを「研究資料」と呼んだ。
それに、カルラがエルに石を投げたとき、彼は止めるそぶりなど一切見当たらなかった。
エルの治癒能力を見るために、ちょっと実験をしてやろう。
そのくらいの気持ちで、あのとき石を投げたのだろう。
実験用のネズミに病原菌を注射するのよりも軽い気持ちだったのだろう。
見世物の化け物ではなく、実験動物でもなく。
命ある「個」として、見てもらいたかった。
「ゼンは、あたしを『エル』として見てくれてるみたいだから。ついていってもいいかな、って、思ったの」
ささやくように、エルは言う。
干し肉を食べ終えて眠たそうにしているアレンは、「ふうん」と、興味なさげに相づちを打った。
なによ、自分が訊いたくせに。と、エルはいじけた顔を作る。
それでも気を抜くと笑みがこぼれてしまうくらい、エルには今の生活が楽しくてしかたがなかった。