ラスト・ジョーカー
「あっちにまっすぐ行ったあたりに、〈ハナブサ〉へ向かう大きな隊商が野営してるわ。
うまく隊商の仲間に入れば、〈ハナブサ〉へ入るときの検問でかくまってもらえるかもしれないわね」
それを言うと、カンパニュラはゼンがなにか言うよりも早く「それじゃあね」と一言残して、煙のように消えてしまった。
残されたゼンは少女の消えた空間を呆然と眺めて、「なんだったんだ、いったい」と、小さくぼやいた。
(だが、いいことを聞いた)
実を言うと、カンパニュラの言うとおり〈トランプ〉による〈ハナブサ〉の検問をどう突破しようかと思っていたところだ。
大きな隊商ならどこのエリアにもそこそこの信用があるし、荷をすべて検査するには時間がかかるので省略されることも多い。
商品の箱の中にでも隠れさせてもらえれば、検問官に見つからずにすむこともある。
カンパニュラの言葉を鵜呑みにするわけではないが、その隊商を探しに行ってみる価値はある。
そうと決まれば早くエルのところへ戻って、日が落ちる前に隊商を探し出さなければ。
ゼンはボトルを詰めたかばんを右肩から斜めに掛け、きびすを返して来た道を戻りはじめた。