ラスト・ジョーカー
「砂漠ハエジゴクぅ!?」
アレンが頓狂な声を上げた。
それもそのはずで、つい先日エルが砂漠生物を一匹倒したばかりだから、通常ならしばらくは現れないはずなのだ。
それに加えて、今は夕方とはいえ陽がまだ出ている。
砂漠ハエジゴクの活動時間は夜のはずだ。
(どうなってんだよ……)
ゼンは眉をひそめる。
と同時に、「ゼン!」と、エルの呼ぶ声を聞いた。
「人が大勢いるの! ゼンの言ってた隊商の人たちだと思うんだけど、結界で守ってあげられない?」
ハエジゴクの根元を指差してエルが言うが、砂煙が激しくてゼンには人影すら見えない。
だが、エルが言うならそうなのだろうと判断して、ゼンはできるだけ大きな結界を張った。
それを確認すると、エルは転がっていた岩を蹴って高く跳びあがった。
羽織っていたマントが風にあおられ、ふわりと落ちる。
ゼンがそれを受けとめるより早く、七、八メートルは先にある大岩にエルが着地した。
「とんでもない脚力だねー」
アレンがひゅー、と口笛を吹いた。
それを黙殺して、ゼンは宙に手をかざす。
すると、エルの目の前に無数の小さな結界が現れた。
それは階段のように連なり、砂漠ハエジゴクに続いていく。