ラスト・ジョーカー



 驚いて振り返ったエルに、ゼンは「行け!」と怒鳴った。



 それに頷き返し、エルは結界の階段を駆け上がる。


驚くべき跳躍力で一瞬にしてハエジゴクにたどり着くと、その半開きの口めがけて右脚を一閃、

上顎を蹴り上げて口の中へ滑り込むと、すぐさまゼンのナイフで目玉を本体から切り離し、今度はその目玉を八つ裂きにして息の根を止めた。


そしてハエジゴクの口の中から出て空中に浮かぶ結界に跳び移る。


――すべて一瞬の出来事だった。



 ゼンの作った結界の上に乗って、ふう、とため息をついたエルは、唐突に、全身が総毛立つような寒気を覚えた。



(なにか、くる……!)



 とっさに「ゼン!」と怒鳴る。


「ゼンと、アレンの周りに結界を!」



 叫ぶと同時に、砂漠ハエジゴクが現れたときのような轟音が鳴り響き、巨大な砂柱が立ち上った。


だが、砂漠ハエジゴクのときとは比べ物にならない規模だ。



 砂煙が激しすぎて、視覚も、嗅覚も、聴覚も役に立たない。


いったいなにが起こったのかもわからなければ、ゼンが無事かどうかもわからない。


他にどうしようもなく、爆風が収まるのをエルはじっと待っていた。




< 93 / 260 >

この作品をシェア

pagetop