ラスト・ジョーカー




 徐々に、徐々に。


砂煙が薄れていく。


そして現れたモノの輪郭が砂の向こうに見えはじめたとき、それが突然エルに向かって蔓を伸ばした。



(蔓……? 砂漠ハエジゴクかな?)



 それならすぐに倒せる。


エルはとっさに跳びのいてそれを避け、その勢いのまま砂漠ハエジゴクの影へ跳びかかった。


砂煙を一陣の風のように切り、「それ」に向かって脚を振り下ろす。



 脚が「それ」にめり込む。


砂漠ハエジゴクよりも柔らかい「それ」は、エルが脚を引き抜くよりも早く、なにか細長い蔦のようなものでエルの脚に巻きついた。


――エルはそこで、初めて「それ」が砂漠ハエジゴクとは違う「何か」だと気がついた。



「ぁ…………!?」



 予想外の出来事に、短く喘ぐような声が漏れた。


エルは手に持ったナイフで、なんとかその蔦のようなものを断ち切ろうとする。


だが、暴れる「それ」に片脚だけつかまれた状態では手元が狂って上手くいかない。


もがくうちにだんだんと蔦が体に絡みついてきて、ねばねばする粘液に捕らわれて身動きができなくなっていく。



(どうすれば……)



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