ラスト・ジョーカー
言葉がとめどなく胸の内にあふれて止まらない。
愕然として固まっているエルの耳に、そのとき、大勢の悲鳴が届いた。
ゼンの結界が解けて、モウセンゴケが隊商の人々に魔手を伸ばしはじめたのだ。
(それが狙いか)
結界を作っている者を消せば、より多くの「餌」にありつけるとわかったからか。
砂漠モウセンゴケの蔓が隊商の子供を捕らえ、それに追いすがって母親が叫ぶ。
男たちは皆手に武器を持って闘うが、己れの数十倍も大きな化け物相手に敵う者はない。
「やめて」
エルは無意識のうちにそう呟いた。
唐突に、なにか激しいものがエルの中を突き抜けていった。
赤く燃え盛る焔のようなそれは、怒りなのか、焦りなのか。
いずれにせよ、激情であったことに変わりはない。
それは一瞬でつま先から脳天まで駆け上ってエルを灼いた。
「いやああぁあぁああああぁぁ―――――!!」
悲鳴のような、断末魔のような、雄叫びのような。
そんな声を上げながら、エルは腕に絡むモウセンゴケの腺毛に噛みつき、――己れの腕の肉ごと、それを噛みちぎった。