ラスト・ジョーカー
自由になった手で腺毛を数本掴んで引きちぎる。
そして腺毛がなくなったところに再び噛みついて葉を傷つけ、
今度はその傷に指をねじ込んで、心臓を守る葉を力ずくでこじ開けた。
現れた目玉を、エルはなんのためらいもなく力いっぱい殴って腕で貫いた。
とたん、脚に巻きついた腺毛は力を失って解けていく。
死んだモウセンゴケから跳びのいて、砂の上に降り立つ。
ちょうどそこに先ほど落としたナイフが落ちていたので、拾って砂を払った。
モウセンゴケは倒れる場所に迷うようにゆらゆらと揺れて、やがて根元から地に崩れ落ちた。
――だが。
(こんなものじゃ済まさない。全滅にしてやる……!)
慌てふためいて地中に潜って逃げようとする残りのモウセンゴケを睥睨して、エルは静かに地を蹴る。
エルはいちばん近くにいたモウセンゴケの一体に跳びかかると、腺毛がエルを捕らえるより早く捕虫葉を切り裂き、その切り口に蹴りを入れて心臓を潰した。
そのまま次のモウセンゴケに跳びかかり、同じように倒していく。
アレンも隊商の者たちも唖然として空を舞うエルを見つめているのにも気づかず、
眼にも留まらぬ速さでモウセンゴケの群れを壊し続けた。
数十のモウセンゴケたちは為す術もなく殺戮された。
最後の一体も、あと少しで心臓のある捕虫葉を地中に隠せたというところでエルに砂中から引きずり出され、心臓を噛み裂かれて死んだ。
――勝敗は決した。当初あれほど苦戦していたのが嘘のように。ほんの、一瞬で。
化け物と化け物の群れとの勝負は、そうして終わった。
一人の化け物の勝利という形で。