愛を知る小鳥
「あら専務、どうされたんですか?」

突然現れた予想外の人物に年配の女医が驚きの声を上げる。
結局あれから美羽は戻ってこなかった。会議の残務処理や通常業務をこなし、終わった頃には就業時間を過ぎていた。

「香月がここに来ているはずなんですが…」

「あぁ、そういえば彼女は専務付の秘書でしたね。来てからずっと眠ってますよ。時折苦しそうにしているので良くならないようであれば病院に行ってみた方がいいかもしれませんねぇ」

「…そうですか。彼女はこのまま送っていきますので後のことは任せてもらって構いませんよ」

「あらあら、専務にそんなことを頼んでいいんですかねぇ…? でも私も今日はこの後予定が入っていてどうしようかと思っていたところなので、お言葉に甘えさせてもらっていいですかね?」

後片付けを済ませた女医から鍵を受け取ると、潤は美羽が眠るベッドへと足を進めた。そこにいる彼女は予想通り青白い顔をしたままで、やはりあの夜と同じだと再確認した。時折苦しそうに顔を歪め、額にはうっすらと汗をかいている。

「…香月、香月」

可哀想だと思いながらもこのままここで寝かせておくわけにもいかないと、美羽の体を揺さぶって起こし始める。


「ん…っ、いやっ!!」


ぼんやりと目を開けた先に人影を発見し、美羽は体を引きながら大きな声で拒絶した。

「香月、俺だ」

「あ…」

我に返ると同時に目の前にいる人物が誰なのかをようやく認識する。
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