愛を知る小鳥
「いやぁっ! こないでーーーーーーっ!!!!」

闇夜を切り裂くような悲鳴をあげた美羽に、男は慌ててその手を掴んだ。

「ちょっと、そんなに大きな声を出さないで! 何もしたりしないから…!」

「いやぁっ! はなしてっ、はなしてぇっ!!」

掴まれた手を振り払おうと全身の力を使って暴れ回る。

「お、落ち着いて…!」

喚きちらし暴れる美羽をなんとか押さえようと、男は更に手を伸ばして体を近づけてくる。その時異変に気付いた近所の家に明かりが灯り、窓を開ける音が聞こえた。男が咄嗟に手を離すと、その一瞬の隙に美羽はその場から逃げていった。

「っ美羽ちゃんっ! 待ってくれ…!」

追いかけようとしたが、周囲の目も気になり男はその場を離れていった。









はぁはぁはぁはぁ…


自分が今どこにいるのかわからない。
わからないけど走って、走って、走って、ひたすら逃げた。
まるでいつもの夢のようだ。
夢と同じならこのまま暗闇に飲み込まれてしまうのか。

それでも走り続けた。どれくらい走ったのかわからない。
やがて足がもつれその場に前のめりに転んでしまった。

「きゃっ!」

ドサッという音と共に思いっきり体を擦り剥く。息を切らしながら後ろを振り返るが、そこには誰もいなかった。ほんの少しだけホッとすると同時に、全身の震えが止まらなくなってきた。ガクガクと、世界が揺れているかと思うほど震えが止まらない。涙で視界が歪んでどんどん見えなくなっていく。
美羽はその場にうずくまるようにしてしゃがみこんだ。


何故、何故、何故_____________
助けて…誰か助けて………!!


無意識のうちに導かれるように携帯へと手を伸ばしていた。
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