愛を知る小鳥


…あったかい…

真綿で包まれているような、そんな柔らかさを感じる。
美羽は自分からそのぬくもりにしがみつくと、それはさらに強く自分を包み込んでくれる。感じたことのないような感覚に包まれながら、生まれて初めての心地よい眠りの中にさらに落ちていった。






「…ん…」

少しずつ意識が浮上していく。まだ働かない頭の中で、なんだかとても気持ちのいい夢を見た気がする、こんなことは初めてだ…なんてことをぼんやりと考えていた。

「…ん?」

徐々に見えてきた視界に、何故かボタンが見える。…何故にボタン?
それに、なんだか背中がとても温かい。疑問符だらけの頭を働かせながら、恐る恐る視線を上げた。

「……っ!!」

「おはよう。ぐっすり眠れたか?」

驚きのあまり声が出ない。何故彼がここにいるのか? ずっと心地いいと思っていたのは、もしかして彼の腕の中だったのだろうか? 完全にパニック状態の頭で必死に考える。そうしているうちに次第に夕べの記憶が蘇ってきた。
自宅前に悪魔がいた。必死で逃げて、そして彼に助けを求めた…ような気がする。次に気がついたときにはまたこの家にいて、そして…。

目の前で青くなったかと思えば今度は真っ赤に変化していく美羽の様子を、潤は興味深そうに笑いを堪えながら見ていた。彼女の頭の中が手に取るようにわかる。手を伸ばし彼女の頬に触れ、そして唇を指でつっとなぞる。途端にビクッと体を震わせた美羽は、戸惑いと不安が入り交じったような顔で潤を見上げた。

「…あの…」

「昨日のことなら夢じゃないぞ。俺はお前の傍から離れない。もう決めたんだ」

「…!」

美羽は何と答えればいいのかわからなかった。彼の想いに自分がどうしたいのか、揺れていた。

「とりあえず飯食うか。俺も夕べから何も食ってないから腹減った」

そんな戸惑いを知ってか知らずかそう言って美羽の体ごと引き起こすと、潤は頭をポンポンと撫でて先に部屋から出て行った。美羽はそんな彼をただ呆然と見ているだけだった。
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