愛を知る小鳥
後片付けを済ませて落ち着いた頃、潤は美羽をソファーに座らせた。その隣に自分も向かい合うように座ると、不安の色を滲ませたままの美羽の手を握って話し始めた。

「美羽。お前の過去に何か辛いことがあったんだろうことは俺もわかってる」

その言葉にびくっと体が跳ねる。潤は包み込む手のひらにさらに力を込めた。

「そのことを無理に聞こうなんて思っていない。前にも言ったがお前が自分から話したいと思ったときに話せばいいんだ。言いたくなければそれでいい。…ただ、これから先お前が幸せになるためには、今ある不安や恐怖は全部取り除かないと駄目なんだ。この先一生その恐怖を一人で背負っていくのか? お前はそれを望んでいるのか?」

言葉と共に美羽の瞳がゆらゆらと揺れる。歯を食いしばって首を振るとそのまま俯いた。

「…嫌です…一生このままかと思うと…そんなの嫌です…。…でも同じように怖い…誰かを信じて裏切られたらって思うと、怖くて怖くてたまらないんです…」

美羽は初めて自分の素直な気持ちを吐露していた。
そう、彼女がずっと抱いてきた恐怖を。
潤はそんな美羽の顎を指で上げると、そのまま優しくキスをした。当然のことながら美羽は驚きで固まっている。

「美羽。怖がってるだけじゃ未来は変えられないんだ。俺はお前に出会って初めて自分を変えようと思えた。これまでどんな人間と出会おうともそんなことを考えたことすらなかったのに。お前はどうだろう…なんて怖がって動かずにいたら、お前との未来は作れない。だから俺は自分で切り拓く。今までの人生もそうしてきたように」


未来は自分で切り拓く___


潤の言葉がストンと美羽の心の中に落ちてくる。
…そうだ、彼の人生も決して平坦なものではなかったのだ。でも彼は決して屈しなかった。諦めなかった。そうやって今の彼を作り上げてきた。
そして、そんな強さをもつ彼を私が変えた…?

「美羽。もう一度聞く。お前は今のままでいいのか? 自分で未来を変えたいのか?」

射貫くような視線から逃げることは許されない。
言葉に出来ない恐怖を消すことなんてできない。
それでも…



「 変えたい____ 」


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