愛を知る小鳥
……眠れない…
美羽はベッドの中で今日何度目かわからない寝返りを打った。
目を閉じると黒い靄がかかったように闇が覆ってくる。明らかにいつもとは違う黒だ。邪念を振り払おうとしても、どこまでも覆い尽くしてくる。
駄目だ…
は体を起こすと部屋を出た。喉がカラカラだ…
リビングへと向かうとそこから明かりが漏れているのに気付く。消し忘れだろうか? それとも…
「専務…」
中へ入るとソファーの背もたれに寄りかかるようにして潤が座っていた。
「こんな時間に珍しいですね。眠れないんですか…?」
潤は体を起こすと手招きをして美羽をソファーに座るように促す。
「…?」
意味がわからず導かれるままそろそろと隣に腰掛けると、すぐに手を引っ張られそのまま抱き込まれた。
「ちょ、ちょっと…!」
「昔話しようか」
「えっ?」
抱きしめられている状況といきなり言い出した言葉の真意がわからず、激しい戸惑いを見せる美羽を気にすることなく潤は話し始めた。
「昔々、医者の家に一人の男の子が生まれました。その男の子は小さな頃から厳格な父親に厳しく躾けられ、とにかく医者を継がせるためだけにあらゆることを叩きこまれました」
「…専務…?」
ハッとして顔を仰ぎ見るが、それに構わず続ける。
「そんな少年の唯一の拠り所は母親の愛情でした。父親に逆らうことはできないけれど、その分たくさんの愛情を少年に注いでくれました。…でもそれも少年が小学校に上がるまでの話。母親は若くして事故で亡くなってしまったのです」
「……」