愛を知る小鳥
唇を離して顔を覗き込むと、震える唇に啄むように何度も何度も口づけをする。潤んだ瞳で見上げる美羽の姿はこの上なく扇情的だ。

「これ以上はお前の気持ちがそれを受け入れられるようになるまで待つ。何もしない」

その言葉にハッとする。

「だが…」

指先で唇をつっとなぞる。それだけのことなのにゾクゾクしてしまう。

「唇は…この唇だけは譲らない。絶対に」

射貫くような視線に息が止まりそうになる。

「専務…」

「今の俺は専務じゃない」

「…え?」

「今はただの一人の男だ。美羽、俺は誰だ?」

彼は…彼の名は…

「……潤、さん…」

「さんはいらない、と言いたいところだけど。お前にしてはよく頑張ったな」

そう言って柔らかく笑うと、まるで子どもをあやすかのようにそっと頭を撫でた。そしてその手に力を込めると、再び二人の距離は近づいていく。
…美羽は初めて自分から目を閉じていた。



それから二人は互いに手を回し寄り添う様に眠りについた。
美羽は久しぶりに安らかな眠りに落ちていった。
先程まで覆われていた不安などどこにもないかのように____
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