愛を知る小鳥
翌朝、美羽は清々しい気持ちでデスク周りの整理をしていた。
夕べは久しぶりにぐっすり眠ることができた。今日のことを考えると怖くて怖くて目を閉じることすらまともにできなかったというのに。潤に抱きしめられるだけでそれが驚くほど綺麗に忘れられた。
人を愛し、愛されることの偉大さを身に染みて感じていた。

『 何かあった時には俺が守るから。何も心配するな 』

家を出る前に何度も何度も力強く言ってくれた。
彼がいてくれるなら何も怖いものはない。乗り越えられる…
美羽は再び気持ちを入れ替えて作業を続けた。





「今日は宜しくお願いします」

今日の打ち合わせには自社からは3人、MOカンパニーからは2人が出席していた。美羽は今回記録係として補佐にあたることになっている。潤以外にあとは営業担当が、相手方は営業部長と急遽交替で入った園田の2人だ。美羽は平常心を保ちながら、終始園田と目を合わせないようにしていた。潤以外に不自然に思われないように努めて自然体で。
だが園田はそんな美羽の姿を会議室に入ってきたときからずっと見ている。それこそ不自然にならないような形でずっと。見なくとも感じる刺さるような視線に徐々に息苦しさを覚え、誰にもわからないように何度も小さく深呼吸を繰り返した。

そうして打ち合わせが開始されて3時間ほどが過ぎた頃、ようやく一区切りがついた。そのタイミングであかねがお茶を持ってきて、その場は一気にリラックスモードとなった。

「いやぁ、噂には聞いてましたが藤枝専務の仕事ぶりはさすがですね」

「恐れ入ります」

「仕事もできてそれだけ素敵だと女性達が放っておかないでしょう?」

「いえ、そんなことはないですよ」

40代ほどの営業部長の男性の問いかけに、潤は営業スマイルでさらりと流す。

「香月さんも、お若いと聞いてましたがしっかりされてますね」

「ありがとうございます。彼女の仕事ぶりにはいつも助けられています」

自分に振られると思っていなかった美羽の代わりに潤が返した。
…だが。
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