愛を知る小鳥
「僕も美羽ちゃ…香月さんが秘書をやってるって知ったときは驚きましたよ」

そこに割り込んできた超えに美羽の体がぴくっと揺れる。

「なんだ園田、お前知り合いだったのか?」

彼がこちらを見ているのがわかるが、とても目線を合わせることができない。

「はい、僕が大学生の時のバイト先で一緒だったんです。仲良くさせてもらってたんですけど、高校を卒業してから彼女と会えなくなってしまいまして。見た感じの印象が随分変わっていたので最初は気づきませんでした。でもこうやって再会できて嬉しいですよ」

「おいおい園田、堂々と仕事の場でナンパするんじゃないぞ?」

冗談交じりに笑う営業部長に、彼もまんざらでもなさげに笑う。

「また会えたのも何かの縁だし、また昔みたいに仲良くしような?」

屈託のない笑い声がガンガンと頭に響き渡る。


ナカヨクシヨウ…?
ナカヨク…?
カレハイッタイナニヲイッテルノ?
ジブンガナニヲシタノカ、ワスレタノ…?
ドウシテソンナニフツウニデキルノ?
ドウシテ、ドウシテ____


ドクドクと心臓が脈打つ。徐々に呼吸も荒くなってきて全身から嫌な汗が噴き出す。怒りか恐怖か手が小刻みに震えて止まらない。
その時、横から伸びてきた手が震える美羽の手を強く握りしめた。はっと我に返り顔を上げる。一瞬目が合った潤が「大丈夫だ」と瞳で伝えてくる。時間にすれば1秒もなかったかもしれない。それでも美羽には伝わった。たったそれだけで、先程まで荒波立っていた心がすーっと引いていくのがわかる。

周りからは死角になっているのか他の人間は誰も気付いてない。美羽は潤の手のひらに自分の指をほんの少しだけ絡めると、彼もギュッと握り返してくれた。その想いを指先から受け取ると、その手を離しまたいつもの秘書の顔へと戻った。


そのほんの一瞬のやりとりを、園田が鋭い目で見ていたことに美羽は気づかなかった。
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