愛を知る小鳥
「せん、むっ」

専務室の扉が完全に閉まるのを待つ前に、美羽はその体を激しく掻き抱かれていた。ギシギシと、骨が軋むほどに強く。それでも今の美羽にとってはその激しさが心地よかった。余計なことは何もかも追い出してくれるから。
美羽はその広い背中に手を回すと、自分も精一杯の力でしがみついた。


「 絶対に守るから何も心配するな 」


職場でこんなことは許されない。それはわかっている。
わかっているけど今だけはどうか____









一人になった部屋で、潤は手のひらに置かれた紙を見つめていた。


『 こうやってまた会えたのもきっと運命だね 』


番号と共にそう書かれたメモ。
あの男が今日来たのは間違いなく美羽と接点を持つためだ。終始美羽を狩るような目で射貫いていた。どういう理由をつけて都合をつけさせたのかはわからない。だがそれができるということは社内での信頼がそれなりにあるということだろう。

美羽は気づいていないようだったが、あの男は自分との関係に感づいている。
帰り際に明らかな敵意を滲ませた目で睨んでいた。



あの男は危険だ



己の直感がそう警鐘を鳴らしている。
美羽の怯えた顔が頭から離れない。


潤は手の中のメモをぐしゃっと握り潰した。
< 142 / 328 >

この作品をシェア

pagetop