愛を知る小鳥
あれから二週間ほどが経ち、表面的には何事もなかったかのように過ぎていた。
だが、美羽の意識の片隅にどうしてもあの悪魔の姿がよぎっては消える。仕事の時には秘書としての仮面を被って自分を奮い立たせることができる。だが、一人になるとふとした瞬間に彼の笑った顔がフラッシュバックして、無意識のうちに意識してしまっていることを嫌でも認識させられる。

夕べはそのせいであり得ない失態をおかしてしまった____



「きゃあっ?!」

脱衣所の扉を開けて視界に入ってきたのは、腰にバスタオルを巻いてはいるもののの上半身は完全に裸状態の潤だった。全く予想外のことに美羽はその場にフリーズしてしまう。潤は驚いてはいたが特段焦った様子もない。

「…なんだ、一緒に入りたいのか?」

「ちっ、違いますっ!! ごめんなさい、間違えましたっ!!!」

全身を真っ赤な茹でダコにして慌ててその場から逃げていく姿を、潤はクスクスと笑って見つめていた。___が、美羽の姿が見えなくなるなり真顔に戻る。

「最近考え込んでるからな…」



「び、びっくりした…」

自分の部屋に戻ってきた美羽は真っ赤な頬に両手をあてて、ドクドクと激しく暴れ回る心臓をなんとか落ち着かせようと必死だった。そういえばさっきリビングで何か話しかけられた。あれは先にお風呂を使うということだったのだろう。ぼーっとして聞き逃してしまったとはいえ、何てことをしてしまったのだろう。

「裸…見ちゃったよ」

いや、正確には裸ではないのだが。それでも免疫のない美羽にとっては裸同然だった。普段細身のスーツをスタイリッシュに着こなしているのに、さっき見た姿は驚くほど筋肉質で。いつもあの胸の中で寝ているなんて…

「もうやだ…これじゃ変態みたいだよっ!」

落ち着くどころか心拍数は上がるばかりで、その後いつもと同じように潤に抱きしめられて眠っても、先程の姿が頭から消えてくれず、彼と一緒に寝るようになって初めてまともに眠ることができなかった。
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